Material Boy
ガラガラとス-ツケ-スを引きながらの出勤。

昨日のうちに宅配でも使って会社に送れば良かった。

電車に乗るのも恥ずかしいのでタクシ-を使った。

「何ごとなの?」

野乃に話しかけたのは、この間まで同じ部署で働いていた。

牧口 皐月(まきぐちさつき)だった。

「ああこれ、新しい企画用の資料と作品。」

「そうなの、鮎川さんも大変ね。」

気の毒そうな視線を投げかけられ、いたたまれない気持ちになる。

企画準備室は、お嬢様のお遊びクラブと陰口がたたかれているから、

こういう目立つ事をすると尚更噂を立てられるだろう。

「あら。」

「その声に視線を上げる。」

「大変だったな、あんなとこで渡して悪かった。」

すっかり聞きなれた声が上から降ってきた。

野乃が見上げると

髪を束ねて、ス-ツを着た遥火がス-ツケ-スの持ち手をを伸ばして

取っ手を野乃の手を外し自分で握り締めた。

左目は、黒いカラ-コンタクトを入れたのか、

右目と同じように漆黒の引き込まれるような目で野乃を見つめた。

ぼうっとした目で同じように牧口も見上げていた。


「Good morning mis.Ayukawa.」

「ああ、おはようございます滝沢さん。」







< 26 / 228 >

この作品をシェア

pagetop