Material Boy
「何なのよ!!」

5階の女子トイレに飛び込んだ野乃は、

個室に入っていきなり怒鳴った。

5階はテナントが入っていないので、よほどのことがない限り誰も来ない。

「何さまよ!!!」

トイレットぺ-パ-をくるくると巻きあげ、散り散りにに千切った。

一気に流すと、気分がずいぶん軽くなった。

『あんた、つまんない』

遥火の声が耳に残っていた。

(そんなこと、本人が一番分かってる。)

面白みのない女。

ずっとそれを演じてきたのだから。

やりたい事も我慢していい子を演じてきた。

親にも学校にも反抗など一度もしてこなかった。

人の求めるものを、先回りして準備し評価されてきた。

必要なものは親が用意する。

それを拒んだ事もない。

家名を継がせるために生んだのだと、それが親の口癖。

いずれは、親の決めた婿養子と結婚して子をなす。

それがあたしの未来。

面白い人生なんてあたしには必要ない。
< 31 / 228 >

この作品をシェア

pagetop