こんなかたちではじまる恋
ドアを閉めようとした時だった。



「あの子を運んだのは幹事だからですよ」



ドアを押さえて綾野は言った。
あたしの気持ちが見透かされてるみたいで、体の奥がかあっとなった。



「そうなんだ!酔っ払ってる女の子の扱いに慣れてるのかと思った!」



ついそんな憎まれ口を叩いてしまう、かわいげのないあたし。



「まさか。酔っ払ってる月島さんの扱いには慣れてるかもしれませんけど」



と余裕たっぷりに綾野は言う。
あたしはあの日のことを思い出して何も言えなくなる。



「月島さん、こっち見たらどうですか?」

「な、なんでよ!」

「あれ以来、俺の目を見ようとしないから」

「そっ、それは綾野の思い過ごしじゃない?」

「今だって一度もこっち見てない」

「…」

「俺のこと見ろよ」



ぐいっと肩を掴まれる。
綾野と目が合う。



「……」




だんだん綾野の顔が近付いてくる。
だけどあたしはどうすることもできない。



………チュッ



ドアの向こうでは他の社員たちの声が聞こえる。
それなのに、あたしの部屋にはその音が響く。



乱暴にあたしの肩を掴んだくせに、それとは逆に綾野のキスは優しかった。



もう消えたはずのキスマークがついていた場所が熱くなる。
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