こんなかたちではじまる恋
「さやか!こんなとこで会うなんて偶然だな」



あたしを振った彼だった。



「仕事帰り?今ひとりか」



まるで何事もなかったかのように普通に話しかけてくる彼が、あたしにはわからなかった。



「久しぶり。ちょうど仕事終わってここで食事をしたの」



心の中はぐちゃぐちゃなのに、普通に返事をする自分がかっこ悪かった。
余裕ぶっていたいだけ。
本当にくだらないあたしのプライド。



「元気そうでよかった」



そう言う彼の左手の薬指にはキラリと光るものがあった。
あたしに見せてくれる笑顔はあの日と同じなのに。



整理できていたと思っていたのに、実際それを目の当たりにすると胸が苦しくなる。
彼が何かを言っているけどちっとも耳に入ってこない。


うまく笑えてるかな?
普通に話せてるかな?
苦しくて、息ができないよ…



そう思っていたときだった。
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