こんなかたちではじまる恋
「何も連絡ないからこないかと思った」



玄関のドアを開けると綾野は言った。



「あたしも服、返さなきゃいけなかったから」



そう言って紙袋を差し出す。
綾野はそれを受け取ると、



「俺も持ってくるから上がって」



と部屋に促される。
ここで待ってると言えばいいのに、この玄関を見ると、夢中で綾野とキスしたことを思い出す。



(また何かあるかも…)



あれだけ変な期待はしないようにと思っていたのに、もうひとりのあたしが部屋に入れと言っているようだ。




「おじゃまします…」




小さくそう言うと、綾野はくすっと笑って


「どうぞ」


と言った。
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