HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 あの分厚い眼鏡の高橋さんが万が一この隣の16番を引いたとしても、おそらく誰かと交換してしまうに違いない。

 何しろ彼女は隣の席が誰だろうと関係ないのだ。何だか悔しい。

 それ以前に彼女が16番を引く確率は相当低そうだが……。

「うおーっ! 一番前かよ!」

 後ろから田中の雄叫びが聞こえた。自分から席替えを提案したのに一番前とは気の毒な話だ。

 どんな顔をしてるのか見てやろうと思い振り返ると、突然田中の目が輝いた。

「清水くぅーん」

「気持ち悪い……」

「そう言わずに、俺と交換しよう」

「断る」

「俺たち親友だろ?」

「それとこれとは別だろ。不正をしたらくじの意味がない」

 俺がそう言うと何人かがこそこそと自分の席へ戻った。席の交換交渉をしていたのだろう。

 女子のくじは男子よりゆっくり進行していた。

 もうすぐ高橋さんの順番だ。自分のくじ引き以上に緊張してきた。

 ふと田中の申し出を保留しておくべきだったかと後悔する気持ちがわき上がってきた。

 いや、そこまでしてどうこうしたいわけじゃない。それにそれは俺の信条に反する。

「高橋さん、引いてよ」

 クラス委員の女子が高橋さんの前に立っていた。

 少し驚いた顔の高橋さんはためらいがちにくじが入っている箱に手を入れる。すぐに一枚の紙片が取り出された。

「はい、高橋さん、16ね」

「ええーーーーーーーーーーっ!!」



 ――16って……



 俺は思わず他人の目など気にせず高橋さんを見つめてしまった。
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