HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 彼女は突如として騒然となったクラスの雰囲気に唖然としていた。黒板を見ても顔色ひとつ変えない。

 本当に高橋さんは俺のことなど髪の毛一本分も気にしていないようだ。その淡々とした様子が憎いくらいだ。

 案の定、彼女の後ろの席の女子が席を替われと交渉し始めた。

 俺は小さくため息をついて机に肘をつく。

 こんな嬉しい展開だというのに、俺の心の中は複雑に揺れ動いていた。

「えっと、今回はごめん」

 高橋さんのはっきりした声が聞こえてきた。



 ――……え? 今、なんて?



 俺はにわかには信じられなかった。



 どういうことだ?

 そんな分厚い眼鏡なのに一番後ろの席に座っちゃって大丈夫なのか?

 本を読むときだってかなり近づけて読んでるのに。

 真面目な高橋さんが居眠りをするために一番後ろに座りたいわけじゃないだろ?



 じゃあ、どうして……?



「はい、じゃあお引越ししてくださーい」

 またクラス委員ののんきな声が聞こえてきた。
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