HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
授業が終わると俺はクラスメイトの田中と一緒に教室を出た。他愛もない話をしながら靴を履き替え玄関を出た俺は一瞬言葉を失った。
「……ありゃ、今日も陣内さんの鎖に何台もひっかかったな」
田中が他人事のように(実際他人事だが)そう言った。陣内とは書道の先生で、怒ると烈火のように激しい。その怒る様子を瞬間湯沸かし器に例えてそのメーカー名があだ名になっているくらいだ。
「おい、清水?」
玄関から一歩も動かない俺に田中が不審な顔で振り返った。
「……やべぇ。俺の自転車もそこにある」
「マジかよ。今日は大漁だから噴火してるかもな」
田中は心底可笑しそうに「じゃ、がんばれ」と俺に手を挙げて見せ、自転車置き場へ消えた。
――くっそー!
陣内先生自体は悪い人ではないと思うが、自転車の違法駐車取り締まりに過剰な情熱を傾けているのがいただけない。そしてもっといただけないのが、罰金ならぬ罰ゲームが待ち構えていることだ。
俺は仕方なくまた靴を履き替え書道準備室へ向かう。他にも鎖に繋がれてしまった自転車の持ち主が集まってきていた。
そこへ陣内先生がお出ましになった。小柄で白髪が多いがシャキシャキと姿勢良くやって来る。
「あそこは人が通る通路で、自転車を停めると邪魔になることくらい、見てわからんのかぁ! このボケナスどもがぁ!」
独特の節回しで陣内先生は全体に怒鳴った。そしてついに今日の罰ゲームの発表だ。
「お前ら、これから書道教室の雑巾がけだ!」
――……って、もうピカピカだろうが!
彼の逆鱗に触れた者はもれなく書道教室の掃除をさせられているので、教室内は他の教室に比べると驚くほど綺麗なのだ。
だが、逆らう者はいない。過去に逆らった生徒が「反省」の文字を半紙に百枚書くまで帰らせてもらえなかったという話は既に伝説と化して、この学校の生徒なら誰もが知っている。
俺は仕方なく雑巾がけを始めた。今日は違反者が多いので案外早く終わった。陣内先生は教室内を点検し渋々OKを出す。ようやく俺の自転車も先生のゴツイ鎖から解放された。
「……ありゃ、今日も陣内さんの鎖に何台もひっかかったな」
田中が他人事のように(実際他人事だが)そう言った。陣内とは書道の先生で、怒ると烈火のように激しい。その怒る様子を瞬間湯沸かし器に例えてそのメーカー名があだ名になっているくらいだ。
「おい、清水?」
玄関から一歩も動かない俺に田中が不審な顔で振り返った。
「……やべぇ。俺の自転車もそこにある」
「マジかよ。今日は大漁だから噴火してるかもな」
田中は心底可笑しそうに「じゃ、がんばれ」と俺に手を挙げて見せ、自転車置き場へ消えた。
――くっそー!
陣内先生自体は悪い人ではないと思うが、自転車の違法駐車取り締まりに過剰な情熱を傾けているのがいただけない。そしてもっといただけないのが、罰金ならぬ罰ゲームが待ち構えていることだ。
俺は仕方なくまた靴を履き替え書道準備室へ向かう。他にも鎖に繋がれてしまった自転車の持ち主が集まってきていた。
そこへ陣内先生がお出ましになった。小柄で白髪が多いがシャキシャキと姿勢良くやって来る。
「あそこは人が通る通路で、自転車を停めると邪魔になることくらい、見てわからんのかぁ! このボケナスどもがぁ!」
独特の節回しで陣内先生は全体に怒鳴った。そしてついに今日の罰ゲームの発表だ。
「お前ら、これから書道教室の雑巾がけだ!」
――……って、もうピカピカだろうが!
彼の逆鱗に触れた者はもれなく書道教室の掃除をさせられているので、教室内は他の教室に比べると驚くほど綺麗なのだ。
だが、逆らう者はいない。過去に逆らった生徒が「反省」の文字を半紙に百枚書くまで帰らせてもらえなかったという話は既に伝説と化して、この学校の生徒なら誰もが知っている。
俺は仕方なく雑巾がけを始めた。今日は違反者が多いので案外早く終わった。陣内先生は教室内を点検し渋々OKを出す。ようやく俺の自転車も先生のゴツイ鎖から解放された。