HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
「うぎゃっ! ……ご、ごめんなさい!!」

 俺に密着してしまったことに気がついた舞は気が動転しているのに、更にパニックに陥ったようだ。俺から飛び退るように離れて、鞄を拾った。

「大丈夫? ていうか、何あれ?」

「ひ、ひ、ひっ……」

「……?」

「人さらいっ!!!!!」



 一瞬、俺は舞をまじまじと見つめた。

 ――……人さらい?

「ぶはっ!」

 ちょっと、舞ちゃん! 可笑しすぎて腹が痛いんだけど!!

 俺は我慢できずに思い切り爆笑してしまった。こんなに可笑しくて笑ったのは久しぶりのような気がする。

 ひとしきり笑って舞を見ると珍獣を見るような目で俺を見ていた。サーッと血の気が引く。まずい、笑いすぎた。

「いや、ごめん。高橋さんが『人さらい』なんていうから可笑しくて……。でも危ないところだった。怖かったよね?」

「えと……声も出なくて……」

 そりゃそうだよな。それが普通の反応だと思う。

「大声って咄嗟には出ないらしいよ。普段から練習しておくといいみたい……って今は練習しなくていいけど。俺が疑われるから」

「そうなんだ」

 ようやく舞は落ち着きを取り戻したようだ。本当によかったと思った次の瞬間だった。



「あ? ……あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



「だから、今練習しなくても!」

 ――おい! 俺はまだ何もしてませんが。
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