HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
「からかったわけじゃなくて……あーでも今更何言っても遅いか」

 渡したティッシュペーパーで鼻をすする舞を見て、俺は確信する。

 ――完璧に流された……。

 仕方ない。まだ早すぎる。俺はがっかりしながらも舞のスピードにあわせようと思い直した。

「高橋さんをついからかいたくなったのは確かです。ごめんなさい。でも、高橋さんって他の人と違うから楽しい……っていうか、嬉しかったんだよね」

 もし隣が舞じゃなかったら俺は居眠り三昧の毎日に決まってる。あんな特等席にいて居眠りするな、というほうが無茶な話だ。

 それに舞は悪戯し甲斐があるってわかったし。

 不思議そうな顔をしている舞に俺はもう少し噛み砕いて説明した。

「思ったことがストレートに言動に現れるでしょ? なんていうか……他のヤツらはワンクッションあるんだよね、俺に対して」

「それは清水くんが学年一番でカッコいいからじゃ?」

 誰がそんなこと言い出したのか知らないけど、それは決して俺が努力して手に入れたものじゃない。

 その評判のせいで舞が俺を敬遠するなら、こんな外見なんかほしいヤツにくれてやる。

「俺は、そんないいもんじゃないよ」



 ――わかるかな、君に。……俺の気持ちが。



 舞は少し表情を曇らせた。もうすっかり涙は乾いていた。

 ――優しいね。さっき自分を泣かせた人間に同情なんかしなくていいのに。

「さて、駅に着いたけどどうする?」

 俺は駅の入り口前で立ち止まり改めて舞を見た。

 思案顔の舞が時計を見る。次の電車まで時間はかなりあるはずだ。俺に当惑した視線を投げかけたその時……



 グウゥゥゥゥゥ…………



 舞は慌ててお腹を押さえた。聞くまでもないが、一応ダメ押しで質問する。

「……行くよね? 定食屋」

 舞は恥ずかしそうに下を向いてかすかに頷いた。俺は密かにニヤリとし、自転車置き場へと急いだ。
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