HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
「あら、そんなこと言う? 私、月曜日に学校でうっかり口を滑らせちゃうかもしれないけど悪く思わないでね。『清水暖人の初恋の人が……』」

 ツンと澄ました顔でそう言うと、英理子は立ち上がろうとした。

「ちょっと待て!」

 俺は慌てて引き止めた。

「俺は今更誰に何を言われても平気だけど、隣の席の人はそういうことに免疫ないからやめれ」

 英理子がニヤリとして腰を下ろした。

「私『隣の席の人』のことだって言ったかしら?」



 ブーッ!



「お兄ちゃん、汚い!」

 思わず飲んでいたウーロン茶を噴いてしまった。笑佳が慌ててティッシュペーパーを探す。英理子の得意げな微笑を忌々しく見返した。

「でもちょっと安心した。あんな真面目な人だし、また本気じゃなかったらかわいそうだと思ってたの」

「それにしても彼女はなんであんなふうになっちゃったんだろう」

 俺は密かに疑問だったことを口にした。少なくとも小学生のときは眼鏡はかけていなかったし、あそこまで人を寄せ付けない印象はなかった。

 英理子は少し首を傾げる。

「もともと内気なタイプだと感じてたけど、人付き合いが苦手なんじゃない?」

「苦手っていうかほとんどしてない」

「そうなんだ。なんかあったのかな?」

 こればかりは想像してもわかるものでもない。俺たちが一瞬黙った隙に遠藤さんが口を開いた。

「はるくんの隣の席の人が初恋の人なんだ?」

 俺が返答をためらっていると、頼んでもいないのに英理子が代わりに答える。

「そうなの。最初に会ったのは小学一年のときだったかな。お姉さんがウチのお母さんのところにピアノを習いに来ていて、夏休みだったから舞ちゃんも一緒に来てたんだよね。そこにはるくんもやって来て、仲良く三人で遊んだんだけど、なぜか舞ちゃんだけ綺麗さっぱりそのときのことを忘れているみたいなのよね」

 ホント、なんで忘れるかな?

 俺たちと遊んだ記憶はあまり楽しいものじゃなかったってことだろうか。
< 130 / 164 >

この作品をシェア

pagetop