HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
――余計なことを言うな!
俺は漫画の雑誌を机に叩き付けた。田中と舞が驚いて肩を震わせる。
一つ深呼吸をしてから、口の軽い田中にとてつもなく寛大な気持ちで話しかけた。
「これ、ありがとう。面白かった」
「お、おう」
田中はわけがわからないらしくきょとんとしたままだ。当然、説明してやる気もないが。
「俺、高橋さんと話がしたいから、どこか行ってくれる?」
一瞬だけ「え、なんで?」という顔をしたが、俺が笑顔のまま目つきを少しだけ鋭くすると、素直に退場してくれた。
今更、清純派を気取るつもりはないが、それでも俺は舞と話をしなければならないと思ったのだ。
――さて、と。
「高橋さん、全部聞いてたよね?」
気が進まないが、舞への尋問を開始する。
「い、いえ、何も聞いてないよ。私、本読んでたし」
舞はあくまで白(しら)を切るつもりらしい。
「さっきから同じページを行ったり来たりしてるみたいだけど」
「私、カタカナの名前ってなかなか覚えられなくて『この人誰だったかなぁ』と思ってね」
「それ、カタカナの名前の人出てこないでしょ。夏目漱石の『明暗』って表紙に書いてあるように思うんだけど」
諦めたのか、舞はようやく俺を見た。腫物に触るような態度が癪に障るが仕方がない。
「さっきアイツが言ったみたいに、女の子をとっかえひっかえするような男って最低……だよね?」
俺は言いながら、激しく気分が滅入っていくのを感じた。この回答次第で俺は、自分がかなり厳しい立場にいることを嫌でも自覚しなければならない。