HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 昨日、帰宅して私は思わず母に聞いてしまった。

「ママ、最近は男性も香水なんかするの?」

 ……この歳になっても「ママ」と呼んでいるのがちょっと恥ずかしいけど、私の母はとにかく「ママ」と呼んでほしいみたいなのだ。一度だけ小学生のときに「お母さん」と呼んでみたら、返事の代わりにとても恐ろしい目で睨まれた。

「舞……お洒落に無頓着なところはあなたのいいところだと思うけど、もう高校生だし無頓着すぎるのもどうかとママは思うわ」

 それは質問の答えではないと思うけど、さすがに私は少し傷ついた。

「つまり、男性も香水をする時代だということ?」

「舞ちゃん……」

 母は優しく微笑んだ。何だか怖い。

「あなた、何時代生まれ?」

「白亜紀くらいかしら」

「……そう。……ってそれじゃ化石じゃない! 自分で認めちゃだめよ!!」

 ということは、今はそういう時代なのか。

「ママは香水なんかつけたことあるの?」

「あるわよ」

 ……へぇ。意外だった。

「それより舞ちゃん」

 母はさっきとは違う意味ありげな微笑を浮かべていた。ますます怖い。

「誰か好きな男の子でもできたの?」

「は? なんでそうなるの!?」

 思わず私は大きな声をあげてしまった。

「だってその男の子は香水つけてるんでしょ?」

「違うよ! ……あの、隣の男子が……」

「あら、隣の席の男の子を好きになっちゃったの?」

「ちがう!!!!!」

 母は何としてでも好きな人と香水を結び付けたいらしい。

「もう、いい」

 私は母に聞いたのが間違いだったとようやく気が付き、苛立ちを大きな足音に変えて階段を駆け上がり自分の部屋のドアを閉めた。
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