HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
#19 君の不在が教えてくれること(side暖人)
 雲が風にのって気ままに空を流れていく。

 ふわふわと綿菓子のようで美味しそうだと思い、教室の壁時計を見るともうすぐ正午だ。

 ――暇だ。ついでに腹が減った……。

 今日何度目かわからないため息をつく。そして恨めしげに隣の席を見た。

 ――やっぱり昨日体調悪かったのかな。

 また窓の外に目をやった。

 授業は最高につまらない。古文の先生が『源氏物語』について解説しているが、当時の帝の夜の生活について、冗談交じりにきわどい発言をして生徒の笑いをとっている。

 正直、俺にはどうでもいい。

 ハーレムは楽しそうだが、帝の寵愛を受けた桐壺の更衣が他の女性たちから嫉妬され、廊下を歩けば着物が汚れるようにわざと汚物を撒き散らしてあったりするくだりを読むと、男女それぞれの性(さが)に嫌悪感すら覚える。

 愛情が、場合によっては、悪意に発展していくのが人間の怖い部分だと思う。

 しかもそれが大昔から何も変わっていないというのが、気が滅入る原因だ。

 ――愛……ね。

 しかし考えようによっては『源氏物語』はよい教訓話だとも言える。現代風に言うなら、イケメン御曹司が愛した女性は必ずしも幸せにはなれないのだ。人生、ほどほどがよいということか。

 つーか、イケメン御曹司なんてどこにいるんだ? と、俺は思う。

 しかも御曹司というのは生まれてみたら家が金持ちで超ラッキー! ……といった具合で、本人の努力は皆無。

 イケメンだって同じだ。まぁ、現代では整形という裏技もあるが、それは努力とは言えまい。

 ――それにしても、進路どうするかな……。

 担任から呼び出されて言われた言葉を思い出した。

「そろそろどっちに進むのか、ご両親とよく相談して決めたほうがいいぞ」

 ――なぜ俺の進路を両親と相談しないといけないんだ?

 知らないうちにまたため息が漏れた。

 欠席している舞の席をぼんやりと眺めて、先週聞いた彼女の進路について思いをめぐらす。
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