HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 制服のズボンのポケットに手を突っ込んで、廊下の真ん中をズカズカと歩いて行き、ある教室の前で立ち止まった。

 教室の中を覗くと、英理子の顔が見える。

「神崎」

 呼び捨てて、顎でこっちに来いと示す。英理子は一瞬嫌そうに顔を歪めたが、すぐに廊下まで出てきた。

「何の用? ストーカー男」

「つか、今日高橋さん休んでるから」

「えー?」

 英理子は驚いて手で口を覆った。舞の体調不良に気がついたのは俺だけか。

「どうしたんだろう。あ、もしかして……」

「何?」

 英理子はムフフと気色悪い笑みを漏らした。

「なんでもない。それより何か用?」

 笑いを無理に収めて澄ました顔で言う。訝しく思うが、まずはこのイライラをぶつけることにした。

「英理子、高橋さんの噂、知ってる?」

「ウワサ? 知らない。そんなの聞いたことないけど」

 学校内の噂に詳しい英理子が知らないのは変だと思いながら、田中の言ったことを話すと、英理子は難しい顔で頷いた。

「それ、きっと最近クラスの中で広まった噂なのよ」

「どういうことだ?」

「はるくんが舞ちゃんと仲良くするのを不愉快に思う人がいるんじゃない」

 思わず腕を組んで廊下の壁に寄りかかった。

 ――なるほど。そういうことか。

 納得したくはないが、それが一番妥当な線だと認めざるを得ない。



「バッカじゃねぇの?」



 俺はもう一度同じセリフを、今度は心底呆れて言った。

「そう言いたくなるのもわかるけど、仕方ないわよ。それよりはるくんは自分の行動の結果が相手に及ぼす影響を考えたほうがいいと思う。女の嫉妬は怖いわよぉ」

「……ご忠告どうも」

 まだ何か言いたげな英理子にさっさと背を向けて売店へ向かった。腹が減っていたのを急に思い出したからだ。
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