HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 私の疑問が清水くんには伝わったらしく「英理子、高橋さんに自己紹介しないと」と言った。

「え? 高橋さん、私のこと覚えてない?」

 英理子さんは目を見開いて口に手を当てた。英理子さんの目は大きくて、そんなに見開いたら落ちちゃうんじゃないかと心配になった。

 覚えて……?

 私は一生懸命記憶をたぐり寄せたが残念ながら英理子さんのことは思い出せなかった。

「英理子のお母さんがピアノ教室をやってるんだけど」

 隣のソイツの一言でようやく私は頭に電球マークがついた。

「神崎さん!」

 お姉ちゃんが以前通っていたピアノ教室が神埼ピアノ教室だった。ということは、英理子さんのお母さんが先生だったのね。

 それにしても英理子さんの顔をいくら見ても何も思い出せない。記憶力は悪い方じゃないのにな……。

「そうです。小さい頃だけど、あなたと一緒に遊んだことあったのよ。もう忘れちゃったのね」

 少し残念そうに英理子さんは言った。

「もう戻るわね。はるくん、それ、ありがとう」

 それ……とは隣の机の上に乗っかっているやたらと難しそうな本のことらしい。なになに? 『フーコー入門』……? 聞いたこともない単語だった。

 そういえば神崎英理子という名前は、テスト後に廊下に貼り出される順位の上のほうにある。勿論、いつも一番は隣の席のソイツ、清水暖人なんですけどね。

「英理子」に「はるくん」か。

 清水暖人という人は私が見る限り誰にでも分け隔てなく接している。いわば八方美人。だから私なんかにも普通に話し掛けてきたりするのだろうけど。

 でも英理子さんとは普通以上に仲がいいようだ。

 ……別にだから何だってこともないんだけど。

 ふーん。

 ……………。

 ……付き合ってるとか?
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