HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 清水くんの友達はすごすごと自分の席に戻った。その背中は小さくなっているようでかわいそうだった。

「高橋さん」

 私は改めて名前を呼ばれてドキドキした。なぜかはわからない。私に話があると言っていたけど、私には全く心当たりがないのだ。何を言われるのかと期待と不安で心臓が口から飛び出しそうな勢いだった。

「全部聞いてたよね?」

「い、いえ、何も聞いてないよ。私、本読んでたし」

 私はバレバレだとは思いながらも嘘をついた。ここで普通は「うん」と言えないと思うけど。

「さっきから同じページを行ったり来たりしてるみたいだけど」

 うっ! 何気に見てたのね。器用なヤツ。確かに文章が頭に入ってこないから、前に読んだところまで戻ってみた。それでもさっぱり進まなかった。

「私、カタカナの名前ってなかなか覚えられなくて『この人誰だったかなぁ』と思ってね」

「それ、カタカナの名前の人出てこないでしょ」

 ……タラリ。冷や汗が背中を伝った。

「夏目漱石の『明暗』って表紙に書いてあるように思うんだけど」

 あああああ!!!!!

 こんな日にこんなわかりやすい本を持ってくるんじゃなかった! せめてアガサ・クリスティとかにしておけば……!

 私はゆっくりとおそるおそる隣を見た。清水くんは意外にも少し困ったような表情をしていた。

「さっきアイツが言ったみたいに、女の子をとっかえひっかえするような男って最低……だよね?」

 なるほど、それを気にしていたんだ。確かにさっき機嫌が悪くなったのは「とっかえひっかえ」という単語が出てきたときだった。
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