HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
――ま、知ってたんだけどね。
俺はいつもどおりに登校して、玄関から続く廊下の掲示板の前で足を止めた。
そこにはサヤカさんがとあるピアノコンクールで入賞したニュースの記事が貼ってある。もう半年くらい経つから既に紙は色褪せているし、今更気に留める人もいないだろう。
――頑張れよ。
毎朝こうやって心の中でエールを送る。
最初は写真を見るのもつらかったが、今ではすっかり形式的なものになって特別な感情というのはない。ただ彼女が元気で頑張っていればいいと思うだけだ。
「よぉ、清水。今日学校の中ずいぶん寒くないか?」
後ろから同じクラスの田中弘樹(たなかひろき)が声をかけてきた。振り向くと田中は首を縮めてマフラーの中に顔を埋めている。
「そういえば寒い」
「しかし今年は寒いよなぁ」
「異常気象らしいね」
「温暖化はどうしたんだ? 清水、頭いいんだからどうにかしてくれよ」
「どうにかなるわけないだろ。それより学校の中の暖房をどうにかしてくれって先生に頼んだほうがいい気がする」
教室に入ったがやはり暖房が入っていないようだ。みんな上着を着たままぶるぶると震えていた。
俺は自分の席に鞄を置いて何気なく前を見た。
教室の前のドアから眼鏡をかけた女子が入ってきた。えーと、名前なんだったかな? かなり存在感の薄い人だが、確か成績はいいほうだったと思う。
普段は視界に入っても意識すらしないのに、なぜか俺の目は彼女の姿を追っていた。
――あれ?
よくわからないが俺は違和感を感じた。
彼女は俺の斜め前方の席だ。教室に入ってきて眼鏡が白く曇ってよく見えないらしい。困ったようにおどおどしながら自分の席へ向かう。
ようやく自分の席にたどり着いた彼女は安堵して椅子に座った。俺もホッと胸を撫で下ろす。
そして彼女はおもむろに眼鏡を外した。
俺はいつもどおりに登校して、玄関から続く廊下の掲示板の前で足を止めた。
そこにはサヤカさんがとあるピアノコンクールで入賞したニュースの記事が貼ってある。もう半年くらい経つから既に紙は色褪せているし、今更気に留める人もいないだろう。
――頑張れよ。
毎朝こうやって心の中でエールを送る。
最初は写真を見るのもつらかったが、今ではすっかり形式的なものになって特別な感情というのはない。ただ彼女が元気で頑張っていればいいと思うだけだ。
「よぉ、清水。今日学校の中ずいぶん寒くないか?」
後ろから同じクラスの田中弘樹(たなかひろき)が声をかけてきた。振り向くと田中は首を縮めてマフラーの中に顔を埋めている。
「そういえば寒い」
「しかし今年は寒いよなぁ」
「異常気象らしいね」
「温暖化はどうしたんだ? 清水、頭いいんだからどうにかしてくれよ」
「どうにかなるわけないだろ。それより学校の中の暖房をどうにかしてくれって先生に頼んだほうがいい気がする」
教室に入ったがやはり暖房が入っていないようだ。みんな上着を着たままぶるぶると震えていた。
俺は自分の席に鞄を置いて何気なく前を見た。
教室の前のドアから眼鏡をかけた女子が入ってきた。えーと、名前なんだったかな? かなり存在感の薄い人だが、確か成績はいいほうだったと思う。
普段は視界に入っても意識すらしないのに、なぜか俺の目は彼女の姿を追っていた。
――あれ?
よくわからないが俺は違和感を感じた。
彼女は俺の斜め前方の席だ。教室に入ってきて眼鏡が白く曇ってよく見えないらしい。困ったようにおどおどしながら自分の席へ向かう。
ようやく自分の席にたどり着いた彼女は安堵して椅子に座った。俺もホッと胸を撫で下ろす。
そして彼女はおもむろに眼鏡を外した。