HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 ――……え?

 ――えーーーーー!?



 俺は眼鏡を拭いてかけ直す三十秒ほどの間、彼女に釘付けになってしまった。



 ――ウソだろ?



 眼鏡をかけ直した彼女は取り立てて特徴のない動作で淡々と授業の準備をする。俺はしばらく呆然とその様子を見ていた。

「おい、清水? 何、突っ立ってんの?」

 田中に声をかけられて、やっと我に返る。

「あ、いや、世の中には不思議なことがあるものだな、と思ってさ」

「何わけわかんねーこと言ってんの? 寒さでおかしくなったか?」



 ――何故だ? 何故みんな気がつかない? あのやたら分厚い眼鏡のせいか?

 ――そうだよな。俺だってさっきまで気がつかなかったんだ!



「ていうか、電灯も点かないらしい」

 田中は俺の動揺などどうでもいいのか、上を指差してそう告げた。今日はあいにく黒っぽい雲が低くたれこめていて、教室の中も朝とは思えぬ暗さだ。

「……つまり停電?」

「かもなー。今時停電なんて珍しいよな」

 ――あ、そうか。

 俺は思い出した。何故今日に限って彼女に目が行ったのか不思議だったが、彼女を初めて見たのが薄暗い会場だったからだ。



 忘れもしない中学三年生の冬。

 それがサヤカさんを見た最後の日だった。
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