HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
#12 こっち向いてよ、と願ってはみたものの(side暖人)
 こんな暗い教室でどうやって授業するんだ? とクラスメイトは騒然となっていたが、俺には全く関係ない話だった。板書をノートに書き写すなんて面倒なことはしたことがないからだ。

 朝のホームルームが始まる前に俺がしたことと言えば、彼女の名前を調べることだ。まず教壇の上に置いてある座席表を何気なく見に行く。この「何気なく」というのが難しい。だが今日はクラス内が停電のおかげで騒がしいのでこれは割と簡単にできた。



 ――高橋さんか。そういえばそうだったかも。



 この国ではかなりメジャーな姓だから忘れてしまったんだろう。うちの隣も高橋さんだしな。

 姓はわかったが下の名前がわからない。壁に貼り出してあるクラスの各委員の表を見たが彼女は何の委員にもなっていないらしい。



 ――さて、どうする?



 俺は日誌に目をつけた。確か日直の名前を書く欄があったはずだ。今日の日直の席へ向かう。

「ねぇ、ちょっと日誌見せてくれない?」

「いいけど、何するの?」

 日直は高梨というこのクラスでは少し変わった女子だった。余計な詮索をしそうなタイプだからやっかいだ。

「暇だから先生のコメント読もうかと思って」

「こんな暗い中で?」

「そう。俺、視力いいから平気だし」

「ふーん。どうぞ」

 何とか日誌を奪い取ることに成功する。俺は高梨の席から少し離れて日誌をパラパラとめくった。



 ――あった!



「高橋 舞」

 と、おそらく彼女のものだろうと思われる丁寧な文字を目で追った。意外と達筆で感心した。書写の手本みたいな筆跡だ。
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