HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 突然、電気が復旧した。

 高橋さんは急に明るくなった教室に驚いたのか、本から目を離し電灯を見上げた。だがすぐにまた小説の世界へ戻る。

 彼女の周りだけはまるで別世界だ。静謐な空気が彼女を守っているかのようだ。不躾にそこへ踏み込むことは許されない気さえする。

 その後ろ姿を見ていると俺は自分の愚かさを嫌というほど思い知らされた。本当に俺はどうしようもない男だ。

 もし、高橋さんがこのどうしようもない俺の醜態を知ったらどう思うだろう? 軽蔑するだろうか。それとも慰めてくれるだろうか。



 ――たぶん、どっちでもないな。……軽くシカト、とか。



 その考えが一番しっくりきた。俺は自分の考えに思わず苦笑する。

 時間より遅れて担任が教室に入ってきた。そこで俺は高橋さんのことを考えるのを中断した。
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