水色ミステリアス。



――榊原 ナツミ。

俺はこの妙に態度がデカい女を偶然にも知っていた。


「へぇ、ミスドに新入部員…。珍しい嗜好をしたやつもいるもんねぇ」


榊原は俺たちの座る向かい側――長机を挟んで――に座り、どこの猫かわからないが頭を撫でながら大げさに反応した。

ミスド、と言うのはミステリー同好会の略称だろう。


「じゃ、自己紹介。髪が茶色の君から」


茶色、というのは聖のことだ。

だが決して染めてるわけじゃない。

こいつの家系の遺伝子はどうも茶色っけを含んだ髪をしているようだ。


「磯山聖です!ミステリーにはとても疎いです!読んだのはホームズを一巻くらいで」


…そんな正直に言ってよいものか。


「へぇ、疎い割には読んだのね。ホームズのどの巻を読んだの?」

「えーっと…何だったかな…あの…色みたいな名前の…」


色?


「緋色の研究、だな」

「え?…ああ、そう!そんな感じ!さすがは相棒!」


まあ運だ。

俺は確かにミステリーがすきだ。

ホームズも嫌いじゃない。

が、熟読したほどではない。

さほど詳しい訳でもない。

緋色の研究なら、ホームズ初心者にも読みやすいはずだしな。


「…詳しいのね。ここにもホームズがいたみたいだわ」

「止めて下さい。ホームズがすきな訳じゃありませんから」

「へぇ…そうなの。で、あなたはだぁれ?そしてなぜ私の名前を知っていたのかしら?」


俺に対する好奇心、というよりは敵意のほうが近いだろうか。

何か、俺は勘違いされてるようだ。


「西島美希斗です。先輩の名前を知っていたのは、姉の中学の同級生だからです」

「姉?…西島…って、西島香奈子の弟ね!」

「はい。なので榊原先輩が考えてるような探偵ではありませんよ」


姉が中学の頃、たびたび名前を聞いていた榊原 ナツミ。

無類の猫好きで、本人も猫のようだ、と。

俺はこの2日間、ミステリー同好会について調べていて、同好会長の名前…サカキバラナツミを聞いたとき、ピンときた。

無類の猫好き…


――ビンゴだ




< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop