出会いから付き合うまで。
 近くのコンビニに行くと、草加君が待っていた。なんだか急に気恥ずかしくなってきた。だって、こんな深夜に会うなんて……密会のようで周りを気にしないといけないんじゃないか、そう思えてくる。それに……実際に会うと羞恥が先走って声が出せなかった。メールや電話ではあんなに素直になれたのに。
「どこか座って、ゆっくり話せるところ無いかな?」
 草加君が切り出した。あたしがこの近辺には無い、と言うと、草加君がじゃあ自分の家の近所に行こう、と言った。そこならゆっくり話せるから、と。並んで自転車をこいだ。平行して自転車を走らせる様は、端から見てると恋人同士に見えるだろう。福岡に住んで五年目。通ったことの無い道。その道を、曲がりくねった道を、あたし達は走った。暫く進んでいくと、海岸線が見えてきた。草加君の言っていた話せる場所って、海岸だったんだ。来たことの無い海を見て、あたしは感動した。
 船が沢山停泊している岸辺にあたし達は座った。温暖化の影響で暖かいかと思ったけれど、海風が吹き付けてきて肌寒かった。髪が風に煽られて舞い上がる。
「寒い?」
 寒がっているあたしを見かねて、草加君がそっと手を差し出してきた。
「俺の手、めっちゃあったかいよ」
 あたしは逡巡した。ここは手を握るべきなのだろうか。躊躇しているあたしの手を黙って握ってくれる草加君。温もりが広がった。なんだか、暖かい気分になった。
「何でこんなに暖かいの?」
「んー、心が冷たいから」
 笑って答える草加君。いやいや、そうじゃないでしょと突っ込むあたし。和やかな空気が流れる。そのまま語り合った。顔が火照る。緊張のせいか、会話が頭に入って来なくなった。
「手、小さいね」
「そりゃ、男の子より小さいよ」
「指、細っ」
 あたしの心臓が激しく脈打つ。この心臓の音が草加君に聞かれやしないかと、心配で堪らない。気が気じゃないけど、離したくない。この相反する二つの感情に、あたしはどぎまぎしていた。
 身動ぎしたり、立ち上がったりして手を離してしまっても、どちらからとも無くまた繋いだ。
「――って、その友達がさぁ……って、聞いてる?」
「え? う、うん。聞いてるよ」
 にやけている草加君。この顔、何かたくらんでいるな。
「その友達が、今日泊まりに来ているんだ。呼んで良い?」
「え?」
< 11 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop