出会いから付き合うまで。
 しかし、次第に疑問が湧いてきた。付き合ってもいない人と手とか繋いでも良いのだろうか? この疑問は直ぐに氷解することは無いだろう。堅いかも知れない。実際に、付き合ってもいない人と手を繋いだこともある。でも、こんなふうに当たり前のように繋いでも良いのだろうか。ひょっとしたら、あたしはこの人が好きなのかもしれない。
 そんな思いが交錯する中、まともに話が入ってくる筈もなかった。
 二人の関係をはっきりさせた方が良いのだろうか。でも……怖かった。何故だろう。凄く怖い。
 静かに公園のベンチに座る。公園は昼間の喧騒とは裏腹に、静寂(しじま)に満ちていた。夜中なので、誰もいない公園。不気味さもあって、あたしは草加君の手を握ろうとした。握ろうとしてはっとなった。
「手って、繋いでいいのかな?」
「え? 何で?」
「だって、普通付き合っている人が手繋ぐじゃん」
「そうだね……」
 暫し沈黙が続いた。口を開いたのは草加君の方だった。
「はっきりさせる?」
「え?」
「関係」
 公園の横の貨物列車専用線路を、長くて重い音を立てながら貨物列車が通り過ぎていく。長い貨物列車が通り過ぎていく間、どうしようかたくさん悩んだ。草加君とメールしていた時のこと、海岸で話したこと、様々な思い出が溢れてきて私の胸を包んだ。幸せだった。楽しかった。ずっと、いつまでもこのままでいたい……。手のことも触れなければずっと繋いでいられると思った。けど、曖昧なままでいていいはず無い。
 貨物列車が通り過ぎて、静寂が再び訪れると勇気を出して言った。
「一度しか言わないから、よく聞いてください」
「はい」
「……す、すきです。付き合ってください」
 声が少し上擦っている。鼓動が早い。こんなにも緊張するものだとは思わなかった。まるで入試のときのような、清々しい緊張感。
 草加君が大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。緊張を和らげるためなのだろう。
「俺も、一回しか言わないからちゃんと聞いてください」
「はい」
「……いいですよ」
「え? ぇえ!?」
 我の耳を疑った。横にいる草加君を見遣る。そこには恥ずかしそうに俯く草加君がいて。はにかんでいる草加君は可愛らしい。
「はぁ、……俺から言えばよかった」
「え? いや、信じられないんだけど」
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