出会いから付き合うまで。
アドレス交換
 ある日、一緒にホールに入っている安井さんから、こんなことを聞かれた。
「最近、どう?」
「最近って……あ!」
 あたしには思い当たる節があった。先日安井さんに、気になっとる人がいるやろ? と、訊かれたからだ。でも、訊かれた当初気になっていたのは、宮下君というあたしより一つ年下の男の子だった。しかし――、あたしは困惑して答えに窮した。
「あっ、いや……、んー……」
「……」
 安井さんの、あたしを見詰める視線が痛い……。
 正直、もう宮下君はどうでも良かった。いや、そんな言い方をすると語弊があるけど、でもあたしの中では宮下君の存在は小さくなっていた。それよりも、もっと大きくなった存在があったから。
「え? もしかして、他に気になる人がおるん?」
 安井さんに突っ込まれて、あたしは当惑しながらも思わず頷いてしまった。二度ほど。
「誰? 誰? バイトの人?」
「いや……ちょっ……」
「えー! もしかして……、ウッチー?」
 ウッチーとは、あたしとタメの社員で、内山君のことだ。あたしは即座に否定した。
「ち、違いますよ!」
 あたしに否定されて、引くに引けなくなったからか、安井さんは一焼堂の男の子の名前を上げ始めた。もう、これは当たりが出るまで終わりそうに無いな、とあたしは半ば覚悟を決めた。
「あ、草加っち!」
 何人めかの名前が挙がったとき、あたしの心臓が跳ね上がった。同時に頬から耳にかけて、猛烈に火照ってくる。あ、これ、多分赤くなってるな。そんなあたしの様子を見て、石井さんはやっと当たりを引いたかと、にやりと笑う。
「本当に? 何で? どこがいいの?」
 これは逃げられないな。もう一度、覚悟を決めた。
「…………わ、笑った顔が、かわいいんです……」
 なんか、説明してる。すっごい恥ずかしい。
「草加っちのアド知ってると?」
 携帯をひらひらさせながら安井さんが言った。
「いや、知りませんよ」
 当然だ。メルアド交換など、まだ早い。
「えぇー、訊かな!」
「でも、だって、訊くきっかけ、無いですし……」
「んーそうやね……」
 先ほどまで饒舌だった安井さんが、突然しゃべらなくなった。不気味な静けさ。
 その間、あたしは出来上がったお好み焼きを客席に提供したりしていた。
 と、不意に安井さんが話しかけてきた。
「いいこと思い付いた。私に、安井さん、アド教えてくださいって言って、その流れで草加っちにも聞いたらいいやん」
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