Steady
「ゴチんなりましたー」


母親の手料理をこれでもかと

たらふく平らげた敦は、

そう挨拶するとすっと

席を立った。


「よかったわ。敦くんに

 満足してもらえて」


母親もまた敦とこうして

久し振りに食事が出来た

嬉しさからか、

普段滅多に見せない

柔らかな笑顔をした。


「じゃ、俺そろそろ帰ります」


「え、もう帰るの?」


リビングにある時計の針は

ようやく7時を差そうとしている。


食べ終わった直後だし

少しだけでも休んでいけばいいのに。


それに、……もう少しだけ

敦とくだらない話をしていたい。


けれど私の想いは届かず、

敦は首を静かに横に振った。


「帰るよ。俺、人気者だから

 お呼びがかかるかもしれねーし」


イタズラな笑顔を見せて言う敦に、

私は思わず笑いがこぼれる。





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