Steady
「ほら“とってもイイ場所”

 だろ?

 彩加のことだから、

 渋谷なんて絶対

 来たことねーだろーなって

 思ってさ」


得意気ににんまり笑いながら

高らかに言う敦に、

私は笑い返すことも出来ない。


こんなジャングル

みたいなところ、

どこが“とってもイイ場所”

なんだろう。


「嫌だ、こんな人が

 多いトコなんて。

 息が上がりそう」


すでに息苦しく感じている私は

眉間にシワを寄せながら呟く。


しかし敦は

さらににっこりと笑って

私の手をぎゅっと握って

包み込んだ。


「大丈夫だって。

 俺がちゃーんと彩加の手

 握っててやるし」


「でも、やっぱり私……」


「よし彩加。

 俺の手を離すんじゃねーぞ」


そう言うと、敦は

信号が青に変わった交差点を

ずんずん歩き始めた。




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