Steady
「彩加? どうしたんだよ、

 いきなり」


私の想いなんて

全く考えもしない敦の

軽々しい行動に、

だんだんと胸が

苦しくなっていく。


「敦」


街のざわめきで

かき消されてしまうくらい

小さな声で呼び掛ける。


やっぱり敦の耳に

私の声は届いていないようで

反応せずただ私をじっと見続ける。


「敦、ゴメン!

 私、もう帰るね」


今度は周りの音に

負けないように

声を張り上げて言うと、

私は敦の返事を待たずに

その場から逃げるように走り始めた。


背中から遠のく

「彩加!」という叫び声を

何度も感じながら、

私は必死に渋谷の街を

たくさんの人をかき分けて走る。




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