御曹司なんてお断りっ◆
「田中さん、残業?」
「黒田課長。」
コピー機の前に立って、
ピピっと設定をしていると
後ろから声をかけられた。
優しそうな笑みを浮かべた黒田だった。
「黒田課長も残業ですか?」
「うーん。まぁね。
僕は今から打ち合わせという名の飲み会。」
にっと笑って飲む真似をする。
屈託のない笑顔に
こちらも思わず笑顔で返す。
「そうですか~二日酔いに気をつけてくださいね。」
あははと笑い名がら
私はコピー機の
スタートボタンを押す。
うぅぃーーんと
聞きなれた音が響く。
不意に、ふわっと黒田の手が
後ろから私の体を抱きしめた。
「あの…。身動きが取れないんですが…」
「うん。
だって、抱きしめてるから。」
「…セクハラですか?
ほかの人が見たら、誤解されるのでやめてください」
「あはは。
そういうクールな田中さんが好きなんだけど」
「は?」
「だから、僕…
田中さんが好きなんだけど?」
え??
えぇ??
何を言ってるの?
さっぱりわからない。
私は、後ろから抱きしめられたまま、
顔だけ黒田に向ける。
コピー機の機械音だけが耳障りだ。