君がくれた、夏。
桜井の言う通り、俺には好きな人がいる。
もう十年も前の話だ。
生まれてすぐ母親を亡くし、父親にも見捨てられた当時7歳だった俺は、施設に入れられた。
小学校に入って初めての夏休み。
その頃、施設の友達も少なかった俺は、毎日のように施設近くの海に行ってただただボーッっとしていた。
そんなある日のこと。
いつものように海にいた俺に、突然誰かが話し掛けてきた。
「ねぇ、一人?」
そこにいたのは、ちょうど俺と同じくらいの年の女の子。
透き通るような白い肌。
光に当たるとメープル色に光るサラサラの髪。
絵に描いたような整った顔立ち。
それまで、女の子との関わりがあまりなかった俺は、不覚にもその子を『可愛い』と思ってしまった。