鈴姫
「重要人物です。香蘭姫は今、彼と一緒に宮を抜け出して逃亡中です。……ああ、そうだ。珀伶皇子が巫女を探してくれるそうですよ」
宝焔は懐から折りたたまれた紙を取り出し、香王に手渡した。
それを受け取り、髭を撫でつけながら香王は楽しそうに笑い声をたてた。
「面白いのお。全てがうまくいっておる」
笑う王の隣で、宝焔は少し顔を曇らせた。
「ただ、誤算が一つ。優しい王女様は、兄上のことも助けたようです」
「それは……面倒じゃな。あの小娘、途中で感付いたのか」
「そのようですね」
「気に食わん。あやつが生きていたら、香壺は……」
「大丈夫です。僕にはまだ奥の手が」
微笑んで右手を見せる宝焔を見て、香王はまた面白そうに笑った。
「お前は本当に怖いやつじゃ」
「……」
くくっと笑う香王を、宝焔は微笑んだまま見つめた。
香王は笑っていた。
宝焔の笑みが先ほどとは違う笑みに変わったのにも気づかないまま。