鈴姫
陽は高く昇り、宮中を眩いばかりに照らしていた。
その一角の部屋で、憂焔はたった今聞かされた話に、茫然としていた。
「は?何だよ、それ。」
華京はため息をついた。
「だから、今言ったとおりだ。香蘭は秋蛍とともに昨夜宮を出た。」
「はああ!?」
「お前に挨拶をする時間がなかったんだ、許してやれ。」
「許すもなにも。俺が気に食わないのはそこじゃないんだ。」
憂焔のむくれた様子に華京は眉を寄せた。
彼が気を悪くするとしたら香蘭が挨拶もせずに出て行ったことだろうと踏んでいたが、どうも違うらしい。
「じゃあ一体何が気に入らないんだお前は?」
華京に問われて、憂焔は衾の端を握りしめた。
「あの男だ。香蘭があいつと一緒にいると考えただけでぞわぞわする。」
華京は憂焔の様子にふっと笑い、腕を組んだ。
「まあ…、気持ちは分からなくもないな。だが、あいつはそれほど悪いやつじゃない。そんなに心配するな。」