鈴姫
憂焔は言葉を区切り、跪いた。
「華京王女。どうか貴女の下に置いて下さい。」
扉近くに控えていた華京の従者が驚いて目を丸くしていた。
華京はと言えばそんな様子は全く見せず、無表情に憂焔を見下ろしている。
憂焔も華京も口を開かず、部屋には外で鳴いている小鳥の声だけが響いていた。
やがて華京はふっと笑い、満足そうに組んでいた腕を下ろした。
「よかろう。これは私が頼んだのではないからな。お前が自ら望んだことだ。もし裏切ったりしたら、香蘭の命はないと思え。」
何か嫌味のひとつでも言われるのかと構えていたのだが、華京があっさり了承したので憂焔は肩すかしをくらった気分で立ち上がった。
華京は憂焔がなんとも言えない表情をしているのにも構わず、従者から何かを受け取って笑顔で憂焔を振り返った。
「お前の剣を返しておこう。必要だろう?」
「あ。」
華京が憂焔に手渡してきたものは、憂焔の剣だった。
ずいぶんと触れていなかった束の感触に、憂焔はあの日のことを思い出していた。
そして今自分がこうしてここに生きてたっていることが、不思議で仕方なかった。
「…ありがとう。俺を助けてくれて。」
「何?今さら?」
「わ、わかってるけど。」
「いいんだ。お前も香蘭も、被害者にすぎないんだ。気にするな。」
そう笑って、彼女は憂焔を扉のほうへ押しやった。
「さあ、香蘭のところへ行くんだろう?巫女を守るものは多い方がいい。お前の働きに期待している。」
「はい。香蘭は必ず守ります。」
華京に頭を下げ、憂焔は部屋を出た。
「可愛い奴だな。」
「華京様ったら。」
彼が出て行ったあとで華京とその従者が笑いながらそんなことを言っていたなどとは知らずに。