鈴姫
逃亡
朝の匂い。
澄み切った爽やかな空気と、窓から差し込む淡い朝日が香蘭の目を覚まさせた。
体を起こし、少し身震いするとかけられていた衣がずり落ちた。
黒一色のその衣には、見覚えがあった。
まさか、彼がかけてくれたというのだろうか。
驚愕しながら周りを見回すと、ここは小さな部屋の中らしく、香蘭が寝ていた寝台の他にもう一つ寝台がある他は何もない部屋だった。
「わっ。」
視線を横にやって、香蘭はびくりと肩を跳ねあげた。
何もないと思っていたら、香蘭のすぐ隣に鏡があった。
布が掛けられているが、その形は見慣れたもので、願いの鏡だとすぐにわかった。
そういえば、秋蛍は鏡がハルになれるのは陽が射しているうちだと言っていたけれど、昨夜はずっとハルのままだった。
あれはどういうことなのだろう。
本当はハルにはいつでも変身できて、また秋蛍にからかわれただけだろうか。