鈴姫


前に水の張った部屋で気分が悪くなったことを思い出した。


水鏡にも、鏡ほどではないが流れがあるのだと秋蛍が言っていたはずだ。



香蘭は慌てて水面から目を逸らし、ざばざばと音をたてて川から抜け出した。


そしてふう、と息をつくと、秋蛍に渡された着物を手にしながらちらりと川に目をやった。




水鏡の中に身を沈めていたというのに全く気分が悪くならなかった。




急いで抜け出したとはいっても、前は水鏡の部屋に入っただけで気持ち悪くなっていたのに。




香蘭は着物を身に着けてから、もう一度、恐る恐る水面を覗き込んだ。




水面に揺れながら映る香蘭の顔。



それを確認しても、なんともない。



むしろ、気が休まってほっとするような、そんな感じがした。



「秋蛍様に聞いてみないと」



香蘭はすくっと立ち上がり、脱ぎ捨てていた着物を拾い上げると、小走りで川をあとにした。



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