鈴姫
「俺は鈴に鏡の流れを身に着けて欲しいのに、こいつが邪魔ばかりするだろう。隙あらば鈴を取り込もうとして」
「そんな、あたしを悪者みたいに言わないでよ。あたしはリンを守りたいだけなのに!」
秋蛍に襟首を掴まれて、ハルはなんとか逃げ出そうともがきながらそう叫んだ。
「リンは狙われてるのよ。あたしの中に隠れていたほうが安全だって言ってるの!」
「お前ごと奪われたら元も子もないんだが」
ため息をつきながら、秋蛍は暴れるハルを解放した。
ハルは解放された途端香蘭に飛びつき、秋蛍をきっと睨んだ。
そんなハルを見て香蘭は笑い、ハルの小さな頭を撫でた。
「そういうことだったのね。ハルは、私を守ろうとしてくれてたんだ」
「うん。だからリン、お願いだからあたしの中に隠れてて」
「ありがとう」
香蘭が微笑んだのを見て、ハルはぱっと表情を明るくした。
「それじゃあ…」
「でも、だめなの。それじゃ私は強くなれない」
しかし、すぐに香蘭が首を横に振ったので、ハルは戸惑ったように眉を下げた。
「私はもうただのお姫様なんかじゃない。この世界を変えたいの」
「でも…」
「いつかこの世界をひとつにするためには、隠れてるだけじゃだめでしょ?戦わなくちゃ」
にこっと笑ってみせる香蘭を前に、ハルは瞳を揺らしながら香蘭を見つめた。
秋蛍も口出しせずにハルの様子を黙って窺っている。
香蘭もハルをじっと見つめた。
彼女は《笙鈴》と仲が良かったと言っていた。
きっと《笙鈴》と香蘭を重ね合わせて、香蘭を守りたいと思ってくれているのだろう。