鈴姫
「香蘭」
真っ直ぐに彼は香蘭を見てそう言った。
香蘭は胸を掴まれたように動けなかった。
…お兄様。
憂焔が鈴国に来た日以来、会うことができなかった。
久々に合間見る珀伶皇子は、少し痩せたかもしれない。
今しがた緩めたばかりの涙腺から、涙がこぼれないようにするのに精いっぱいだった。
「香蘭、探したんだよ。生きていたのか」
珀伶は香蘭にさらに近づき、香蘭は一歩後退した。
「人違い、ではございませんか。私は笙鈴というもので…」
「何を言っているんだ。わたしが香蘭を見間違うとでも思っているのか」
腕を掴む手に力が入り、香蘭は何も言えずに立ち尽くした。
風で髪が揺れて、鈴が鳴る。
どんなに嘘を並べようとしても、この鈴のおかげで、とっくに嘘なんかつける状態ではなかったことに気が付いた。
外せと言われても外せなかった、この鈴。
とうとう涙が頬を伝って、地面に滲みた。
「おにいさま」