鈴姫
やっとそれだけ口にすると、それでも、珀伶は嬉しそうに笑って香蘭を抱きしめた。
「会いたかった。生きていてくれて、よかった」
会いたくなかった、なんて嘘で、会うのが怖かった。
会いたかった。
本当は会いたかった。
「私も、会いたかった」
震える声でそう告げて、香蘭も珀伶に腕をまわした。
珀伶が腕の力を緩め、香蘭と目を合わせた。
「香蘭、わたしと共に国へ戻ろう。ここはお前の居るべき場所じゃない」
香蘭は眉を下げて、珀伶にまわしていた手を下ろした。
そして首を横に振った。
「いいえ、お兄様。私はここに残ります」
「どうして」
「私にはやるべきことがあるんです」
香蘭ははっきりと告げた。
珀伶は表情に影を落とし、呟くように言った。
「それは…、巫女として、か」
「やっぱり、ご存じだったんですね」
やはり珀伶には知れていた。
香蘭は今まで存在も知らなかったが、鈴国にも相当の鈴の使い手がいるらしい。
「私は巫女です。巫女として、私はやらなくてはならないことがあるのです。ですから…、国にはまだ、戻るわけにはいきません」