鈴姫
兄妹
香蘭が連れられてきた場所は、どこか山奥の古い屋敷だった。
もう何年も誰も住んでいなかったとみえ、壁はところどころ崩れて蔦が這い、屋根は瓦が落ちて板がむき出しになっているところがあった。
雑草の生い茂った庭を草を掻き分けるようにして進み、屋敷の中へ入るとかび臭い匂いがした。
珀伶は兵士達に香蘭を自分の隣の部屋へ連れていかせ、自分は部屋へ籠った。
香蘭はうつろに兄が消えた方向を見ていたが、兵士に促されて部屋の中へ転がった。
「大人しくしていろ」
兵士はそう言いつけて出て行ったが、一人が戸の前に残っているようだった。
香蘭は逃げる気力もなく床に頬を張り付けたまま動かなかった。
思っていた以上に辛かった。
一瞬で体が引き裂かれるような感覚。
珀伶と対立してしまうだろうということはわかっていたし、覚悟をしていたつもりだった。
それでも、どこかで甘く考えていたのかもしれない。
珀伶は自分に刃を向けたりしないと思っていたのだろう。