鈴姫
数刻後、部屋を出された香蘭は、屋敷から少し離れたところにある草地で藤松と向かい合った。
その場には藤松の言っていた通り珀伶もいて、何も言わずに草地の上に腰を下ろして二人を見守っている。
香蘭は珀伶に視線を向けたが、珀伶が微笑みを向けてくれることはなかった。
まだ胸を痛ませながらも、縄が解かれて自由になった両手に目を向けた。
縄の跡がまだ残っているが、これで香蘭は戦える。
手を見ていると、おい、と声がかかってそちらを見れば、取り上げられていた香蘭の鏡を藤松が投げて寄こした。
危うく取り落としそうになって藤松を睨みつけると、藤松は高慢に香蘭を見てきた。
「珀伶様の妹君だからと言って手加減はしないからな」
「構わないわ。今まで手加減なんかしたことなかったじゃないの」
香蘭は鏡の布を解き、自分は鏡を見ないようにしながら藤松に鏡面を向けた。
「前々から言おうと思っていたのよね。私、あなたが嫌いよ。いつも私の邪魔ばかりするんだもの!」
藤松は何かされるのかと一瞬怯んだが、何も起きないことがわかるとすぐに香蘭を睨みつけた。
「お前が珀伶様の邪魔をするからだ」
「お兄様に会いに行って何が悪いのよ、けち!」
「なんだとっ!」