鈴姫
香蘭が背中を預けていた扉の向こうで物音がし、続けざまに小さな悲鳴が聞こえた。
「ハル!」
急いで扉を開けると、窓から入り込んできたのだろう、香の兵士たちがハルを捕え、ハルは足をばたつかせて抵抗していた。
すぐに兵士たちが香蘭を取り囲み、取り押さえた。
しかし兵士たちは一緒にいた憂焔には目もくれない。
どういうことかと一瞬戸惑ったが、すぐに一人の兵士の腕を掴み、香蘭から引きはがしにかかった。
武器を持たない憂焔に、この数は倒せない。
「香蘭に手を出すな!」
兵士は煩わしいといわんばかりの目を憂焔に向けたが、すぐにその目を見開いた。
「これは…、憂焔様?」
「そうだ」
憂焔が頷いたとき、ちょうど月を隠していた雲が晴れ、憂焔の顔を照らし、夜の闇の中にはっきりと浮かび上がらせた。
その顔を見て、兵士たちにどよめきが起こる。
「いや、まさか。憂焔様は亡くなられたはず…」
憂焔は取り囲んでいる兵士を押しのけ、香蘭を捕えている兵士を睨んだ。
「香蘭を離せ」
「それはなりません!この女と、鏡を連れてくるようにとの仰せですので」
「それなら俺も連れて行け。俺は皇子だ。王宮に帰ってなんの問題がある?」
「しかし…」