鈴姫
兵士たちが戸惑っている隙をついて、ハルが兵士の腕を噛み、痛みに怯んだところで声を張り上げた。
「秋蛍!秋蛍!たすけて!」
「この野郎!」
ハルを抱えていた兵士がハルを気絶させ、香蘭は悲鳴をあげた。
声を聞きつけた秋蛍と珀伶が、部屋から飛び出してきた。
「ハル!?これは」
すぐに二人は何が起こっているかを理解して助けようと動いたが、どこから現れたのかさらに多数の敵に囲まれて、容易に香蘭たちのもとへ辿りつけなくなった。
切りかかってくる兵士を全て倒したときには、もう香蘭たちの姿は消えていた。
「くそ!」
珀伶は怒りにまかせて足元に転がっていた兵士の剣を蹴り飛ばした。
秋蛍も苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、香蘭たちがいた場所に何かが落ちているの見つけて、拾い上げた。
香蘭の短刀だ。
桜の装飾を見て瞳を揺らしたが、すぐに気を取り直して顔をあげた。
「珀伶皇子、足手纏いは幸いにも敵が運んでくれた。我等二人なら身軽なものだ。すぐに王宮へ向かおう」
「足手纏いとは…」
壁に手をついて悲嘆にくれていた珀伶に、短刀を差し出した。
「これは妹のものだろう。渡してやれ」
珀伶は差し出された短刀をしばらくぼんやりと見ていたが、すぐに目に力を取り戻し、秋蛍の手から短刀を受け取った。