鈴姫
修業は大変なものだった。
国の将来を担う者として、必要な知識と体力、それからそれぞれの特化した能力をさらに伸ばすために、夜明けから夜更けまで特訓の日々だった。
とくに桜姫は、一国の守りを担うものになるべくしごかれているというのに、きつそうな顔ひとつせず課題をひとつひとつ順調にこなしていく。
そんな桜姫を手本に、皆それぞれの課題に励んだ。
修業はきついものの、月に一度は好きに過ごしていい日があり、その日は四人集まってふつうのこどものように遊びまわった。
ある夜のこと。
秋蛍は暑苦しさに眠れず、こっそりと庭に降りた。
リリリ、と虫の鳴き声が響く中、月を見上げた。
今宵は半月で、少しがっかりする。
秋蛍は半月よりも満月のほうが好きだった。
綺麗な円を夜空に描く満月には、隙がなく、美しい。
しかし秋蛍が半月を満月に変えることなどできるわけもなく、大きめの石の上に腰かけて仕方なくぼんやりと半月を見上げた。
しばらくそうやって月を見上げていると、虫の声に混じってどこからかすすり泣きが聞こえてきて、秋蛍は眉を寄せた。
すすり泣きは、秋蛍のいる場所から数歩歩いたところにある馬小屋の中から聞こえてくる。
秋蛍は立ち上がり、馬小屋のほうへ、ゆっくりと近づいた。
戸に手をかけ、そっと開く。
柔らかな月の光が、驚いた顔で秋蛍を見上げる少女の姿を照らしだした。