鈴姫


翌日、桜姫はいつもどおり、何もなかったかのように修業場へやって来た。


秋蛍と目があうとそっと近づいてきて、秋蛍の耳元でこそっと囁いた。


「昨日はありがとう。あのことは、誰にも内緒よ。ね?」


彼女はそう言って笑った。






もう秋蛍には泣いていることがばれたとあってか、それからは嫌なことや悲しいことがあると桜姫はこっそり秋蛍のところへ訪れ、怒ったり泣いたりした。


ときには嬉しいことがあったときもやってきて、お姫様らしからぬ満面の笑みで報告に来ることもあった。


秋蛍は桜姫が訪れたときはいつでも、触れることはせず黙って彼女の話を聞いていた。





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