鈴姫
「一年かぁ……」
ぼーっと宙を見ていた瑠璃が、そうだ、と言って立ち上がった。
「昭遊、渡したいものがあるの。ちょっと来て」
瑠璃は不思議そうな顔をする昭遊を引っ張って、屋敷のほうへ消えて行った。
二人を見送ってから、桜姫が秋蛍に笑顔を向ける。
「ふふ、あとは秋蛍だけね」
「なかなかうまくいかない」
目を逸らした秋蛍に、桜姫は首を横に振って否定した。
「気にすることはありません。鏡は一番気まぐれだもの……」
「なぐさめるなよ」
秋蛍に伸ばしかけた手を引っ込めて、桜姫は秋蛍を見つめた。
そして視線を逸らして俯いた。
「あなたには今までたくさん、迷惑をかけました」
いつもより少しだけ真面目な声で言った桜姫を秋蛍はちらりと見て、ため息をついた。
「別にいい。お前を支えるのが、俺たちの役目だからな」
そう言って立ち上がった秋蛍の気配を感じて、桜姫はぱっと顔をあげた。
そして今にも去ってしまいそうな秋蛍の着物の袖を捕まえ、秋蛍、と切ない声を出した。
「わたし、わたくしは……」
「言うな。桜姫」
秋蛍に制されて、桜姫は戸惑ったように目を泳がせた。
秋蛍は着物を掴んだままの桜姫の手を、やんわりと外して桜姫と目を合わせた。
「いつか、俺も必ず王宮へ行く。お前の力になる」
そう言うと、桜姫を残して東屋から出て行った。
残された桜姫は、はらはらと涙をこぼしながら座り込み、しばらく出てはこなかった。