鈴姫





とうとうその日がやってきた。



桜姫を見送るために、屋敷中の人が集まった。


桜姫は乗せられた豪華な籠の中から、瑠璃、昭遊、それから秋蛍を見上げた。


「一足先に行って、皆を待つわ」


「ええ。またね、桜姫」


桜姫は頷いて微笑むと、秋蛍のほうに顔を向けた。


「秋蛍」


秋蛍は黙って桜姫を見る。

瑠璃と昭遊が目を合わせ、少し後ろに下がった。


桜姫は籠の中から手を伸ばし、秋蛍の手をとる。


「桜姫……」


秋蛍が戸惑っていると、桜姫はにこっと笑った。


「きっと来てね。絶対よ」


待っているわ、と言って手を離した。



美しい桜姫は、籠の中に姿を消した。


姫の行列は出立し、皆、見えなくなるまで桜姫を見送った。



秋蛍だけがただひとり、顔を下げて手のひらを見つめ続けていた。



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