鈴姫
香蘭ははっと目を開けた。
そして今見た夢のことを思い出し、額を押さえた。
一体、あの夢は……
そしておかしなことに気が付く。
香蘭がいる場所はとても暗く、前も後ろも、どこまでも闇が広がっている。
憂焔やハルの姿が見当たらないのはどういうことなのだろうと不安になったところで、そういえば自分はハルの中に飲み込まれたのだということに思い当った。
とりあえず出口を探すために、香蘭は立ち上がって前とも後ろともつかない方向に歩き出した。
前に鏡の中に入ったときはハルが出してくれたけれど、ハルの姿も見当たらない。
もしかしてもう出られないのだろうかと思ったとき、右手のほうに淡い光がぽうっと浮かび上がった。
香蘭はすぐにそちらへ向かった。
光の奥に、外の景色らしきものが映っている。
出口だ!
ほっとして、光の中に入ろうとすると、ぐにゃりと景色が歪んだ。
同時に香蘭の体もその中に引っ張りこまれた。
「きゃあっ!」
光の中に吸い込まれ、ころんとどこかに転がり出た。
目の前に池があり、鳥が空を横切っていく。
ここは、外?
香蘭は首を傾げながら立ち上がり、腰を擦った。
衝撃を受けたはずなのに、少しも痛みを感じない。
おまけに不思議なことに香蘭は見たいところを好きなように見ることができた。
まるで空気のように、木をすり抜けることもできる。
これは一体どういうことなのだろうと戸惑っていると、池のほうから話声が聞こえてきて、一組の男女がゆっくりと池の端を歩いているのに気付いた。