鈴姫
彼らは香蘭のすぐ側で立ち止ると、女のほうが男に手を伸ばし、そっと彼の頬に触れた。
「おめでとう。これであなたは鏡を司る者として、三官入りね」
後ろ姿を見る限り、美しい人だ。
地面に届きそうなほど長い髪は磨かれた翡翠のように艶やか。
彼女に男が答える。
「ようやくここまで来れた。長い道のりだったな」
「これからは、わたくしのために働いてくださいね。秋蛍」
秋蛍、と呼ばれた男の顔を見た香蘭は、息が止まりそうになった。
彼の顔は、香蘭が知っている秋蛍という男の顔と全く同じだったのである。
(どういうことなの。こんなことって…)
そしてここが外ではないことに気がつく。
きっとこれは、あの夢の続き。
一緒にいるのは、桜姫だ。
二人は仲良く話しながら建物の中に入り、香蘭は引っ張られるようにしてそのあとに続いた。
長い廊下を歩いていると、前から二人の男女の影が近づいてきて、桜姫達を見つけると女性の方が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あら、秋蛍じゃないの!やっとここまで来たのね、おめでとう」
「瑠璃」
目元の黒子が色っぽい、気の強そうな女性で、にこにこしながら秋蛍の鼻先をつんとつついた。
「これで全員そろったわね。嬉しい!」
飛び跳ねる瑠璃の頭を小突くものがあった。
顔をしかめる瑠璃の背後から、背の高い男が現れた。
濃い紫色の変わった髪をした男だ。
「瑠璃、浮かれているんじゃない。昔のように遊ぶために集っているんじゃないんだぞ」
「うるさいわね昭遊は。わかってるわよ。ちょっと懐かしかっただけじゃない。一番ちびだった秋蛍がこんなに大きくなったのよ、面白いでしょう?」
「誰がちびだ。この前も会っただろうが」
桜姫がそっと秋蛍の腕に手を置いた。
「まあまあ。今夜は秋蛍の初仕事よ。皆で頑張りましょう」