鈴姫


彼らは香蘭のすぐ側で立ち止ると、女のほうが男に手を伸ばし、そっと彼の頬に触れた。


「おめでとう。これであなたは鏡を司る者として、三官入りね」


後ろ姿を見る限り、美しい人だ。


地面に届きそうなほど長い髪は磨かれた翡翠のように艶やか。


彼女に男が答える。


「ようやくここまで来れた。長い道のりだったな」


「これからは、わたくしのために働いてくださいね。秋蛍」


秋蛍、と呼ばれた男の顔を見た香蘭は、息が止まりそうになった。


彼の顔は、香蘭が知っている秋蛍という男の顔と全く同じだったのである。


(どういうことなの。こんなことって…)


そしてここが外ではないことに気がつく。



きっとこれは、あの夢の続き。



一緒にいるのは、桜姫だ。



二人は仲良く話しながら建物の中に入り、香蘭は引っ張られるようにしてそのあとに続いた。


長い廊下を歩いていると、前から二人の男女の影が近づいてきて、桜姫達を見つけると女性の方が嬉しそうに駆け寄ってきた。


「あら、秋蛍じゃないの!やっとここまで来たのね、おめでとう」


「瑠璃」


目元の黒子が色っぽい、気の強そうな女性で、にこにこしながら秋蛍の鼻先をつんとつついた。


「これで全員そろったわね。嬉しい!」


飛び跳ねる瑠璃の頭を小突くものがあった。

顔をしかめる瑠璃の背後から、背の高い男が現れた。


濃い紫色の変わった髪をした男だ。


「瑠璃、浮かれているんじゃない。昔のように遊ぶために集っているんじゃないんだぞ」


「うるさいわね昭遊は。わかってるわよ。ちょっと懐かしかっただけじゃない。一番ちびだった秋蛍がこんなに大きくなったのよ、面白いでしょう?」


「誰がちびだ。この前も会っただろうが」


桜姫がそっと秋蛍の腕に手を置いた。


「まあまあ。今夜は秋蛍の初仕事よ。皆で頑張りましょう」


< 208 / 277 >

この作品をシェア

pagetop