鈴姫
数日後、日が暮れて闇に包まれた王宮の奥で、火の手があがった。
急いで消火作業を行ったが、燃え盛る炎はすぐに大きくなり、王宮を飲み込み始めていた。
人々が逃げ惑う中、秋蛍は必死で桜姫の姿を探していた。
「桜姫は!?桜姫はどこにいるんだ!」
人を捕まえては尋ねるが、皆自分のことばかり必死でまともな答えは返ってこない。
秋蛍は舌うちをして、燃え盛る炎を恨めし気に睨みつけた。
そのときだった。
香蘭はかすかに、桜姫の気配を感じ取った。
例えるのなら、耳の奥で小さな鈴の音を聞いているような感覚。
秋蛍も感じ取ったようで、香蘭が思うとおりの場所に向かって駆け出した。
火の手から逃げる人々を掻き分け、炎が燃え盛る場所から渡殿を挟んですぐの部屋に転がりこんだ。
その部屋の隅で、桜姫が横たわっていた。
秋蛍は急いで桜姫のもとによると、彼女が息をしているか確認し、まだ生きていることがわかると息をついた。
秋蛍が桜姫の頬にそっと触れると、桜姫はゆっくりと瞼を開いた。
彼女は目が霞むのか何度か瞬きをしたあと、悲しそうに笑った。
「秋蛍なの…?」