鈴姫
息がつまって返事ができず、返事代わりに桜姫の手を握ると、桜姫は弱々しく握り返してきた。
「ごめんなさい、秋蛍。もうお別れみたい…」
「桜姫…」
「わたしにはだめだった…。彼が裏切るはずはないと…世間知らずだった愚かなわたしを、どうか許して」
「やっと姫の力になれると思ったのに。もうお別れなのか」
震える声でそう言うと、懇願するように桜姫の手を両手で握りしめた。
「死なないでくれ…」
桜姫は俯いてしまった秋蛍を、悲しそうに見つめた。
自分はもう助からないのを知っている。
秋蛍の望みに、応えてやることはもうできない。
秋蛍に握られていない方の手を、秋蛍の頬に伸ばすと、彼は苦しそうに眉を寄せて顔を上げた。
「わたしの名前を…呼んで欲しいの…」
戸惑う秋蛍に、桜姫は微笑んだ。
「わたしの…名前は…、笙鈴、よ」
秋蛍は名前を告げられると目を見開き、切なげに口を開いた。
「…笙鈴」
彼の口から発せられた自分の本当の名前をうっとりと聞き、息だけの声でありがとうと告げた。
桜姫は涙をひとつ零し、瞼を閉じた。